聖なる愛の日☆ 〜ファニタ ![]() 「なに? そのバレンタインデーってのは」 突拍子もないファニタの反応に、一瞬その場の会話が途切れた。バレンタインデーにチョコをもらえなかったアレクセイを肴に(どうやらアーシャがいいふらしたらしい)、皆で盛り上がっていたときのことである。 「……もしかして、バレンタインデーって知らないの〜? ファニちゃん」 ややあって、恐る恐るといった調子でアールズ・ハキムが尋ねる。ファニタはふん、と鼻を鳴らした。 「悪いけど知らないわ」 「全然悪いと思ってないぞ、その言いかた」 「うるさいわね」 「あのね〜、好きな人や、いつもお世話になってる男の人にチョコレートをあげる日なんだよ〜」 ジャック・ラファイユのツッコミに気色ばむファニタ。すかさずアールズがフォローを入れる。 「そうすると、来月のホワイトデーには倍になってお返しがくるの〜」 「……それもちょっと違うんじゃないか、アールズ」 真剣な顔でいう彼女に、ふたたびジャックがツッコミを入れた。やれやれという調子でファニタは首をふる。 「世界にはいろんな風習を持つ国があるっていうのは知ってるけど、ファロスのこれって極めつけに変だわ。大体、なんでチョコレートなの? 意味が全然ないじゃない」 「あのですねファニタさん、バレンタインはファロスじゃなくって、全世界の昔からの風習ですのよ、本当に知らないんですの?」 「別に知らなくたって生きてくには関係ないでしょ」 ナターシャ・シルヴァコフのちょっと意地悪な言葉に、こともなげにファニタは応じた。負け惜しみでなくどうやら本気でそう言っているらしいのが一同の恐怖を誘う。 「そ、そういう問題じゃないですファニタさん、女の子の常識じゃありませんか」 「そうだよファニちゃん〜、愛がないと人間生きていけないんだよ〜」 「だからそうじゃないだろうが、アールズ!」 「なんでそんなのが女の子の常識になるのよ。バレンタインデーにチョコをあげないと後ろ指さされるとでもいうの? だったらなんでチョコなのかきちんと説明してみてよ、ナターシャ!」 「……うー」 わいわいぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる彼女たちを、アレクセイが遠くからどこか寂しそーに眺めていた……かどうかは定かではない。 ![]()
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