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超科学講座 講座7
医療



 という訳で、いよいよここも最終回となりました。最後なんでSF流人類の滅亡なんてのも考えたんですが、ちょっと時節柄やめまして(当時神戸大震災がありました)今回のネタは「医療」です。

 SF世界では、医療は超光速航行と並んで考証がいーかげんな分野のひとつだったりします。というのも、医学そのものが物理学や機械工学などといった「SF向け」の学問にくらべて、未来予測がしづらいからです。理由はいろいろありますが、最大のものは医療の相手は大抵生物であるということ。なにしろ生物には公式や定理は通用しませんから、物理などのように「理論でこうなると出たから実際にもこうなるはずだ」という一見説得力のある、よく考えると非常にあやしい方法がとれない訳です。
 かててくわえて生物には「突然変異」という論理無用の大ワザがあります。これを出された日にはそれまでの予測なんて全く無駄。みんな崩壊してしまいます。いい例がエイズやエボラ出血熱。あれはもともとは何の問題もないようなウィルスが突然変異であそこまで凶悪になったという説がありますが、あんなもんが出てくることを一体誰が予測していたでしょうか??

 しかし、考証がいーかげんということは逆に言えば好きなことができるという意味でもあります。という訳でSFでは医療考証はやりたい放題、ただ患者をのせてピピピとやればあっという間に診断ができるベッドとか、ひとつであらゆる病気にきく薬とか、一瞬で傷口をふさいでなおしてしまう器具とか、記憶さえコンピュータにインプットしておけば死んでもクローン利用で再生できますとか、そういうのがぞろぞろ出てくることになります。もっとも、最近のSF者は眼が肥えてきてるんで、あんまり突拍子もないシロモノはギャグ以外では相手にされなくなって来ていますが。

 そして、生物以外の物理学や機械工学を相手にする分野でならば、医療だってそこそこ説得力のある(嘘臭くない、とも言います)考証をすることができます。大体、今だって医療技術に限って言えばガンマユニットだのCTスキャンだの、体外衝撃波結石破砕術だのSFちっく大爆発な単語が飛び交っているんですから。ちなみに前の3つの単語の意味はそれぞれ「ガンマ線を照射して手術なしで脳腫瘍を破壊する設備」「X線を使って人体を輪切り状に見る設備」「体内の結石を外からの衝撃波で砕く技術」のことです。

 無重量や低重力の状態で体重が軽くなると、その分身体にかかる負担は少なくなるというのは明らかになっている事実です。当然、病人やけが人は身体にかかる負担が小さい方がいいですから、SFでは患者さんのためにも病院はできる限りそういった環境に調整されるでしょう。例えばコロニーなら「中心軸」ちかくの重力が小さい部分に作られているでしょうし、所によっては専用に病院コロニーなんかもあるかもしれません。もっとも、無重量状態になってしまうと今度は移動や機具などの管理が大変になりますから(なにしろ『置く』ことができない……)、2分の1以下の低重力がいちばんいいでしょうが。
 あと、ロボットの利用も充分考えられます。3原則があるんで人間を傷つけるような行為……手術とかはできないし(いやホントにこういう話はあるんです)、親身になるという次元では到底人間の看護婦さんにはかないませんが、簡単な患者さんの世話や診察、検査などにはいいでしょう。
 そういえば、顕微鏡サイズのロボットを作って腫瘍や動脈硬化などの治療を行うという話もあります。血管を通って患部に行って、治療した後は溶けてしまったり排泄されてしまったりという大変便利なものです。これさえあれば病気で手術というようなことはほとんどなくなるかもしれません。

 人工臓器や人工器官に代表されるサイバネティクス、通称サイバーも医療では大活躍します。なんかサイバーというと一部サイバーソルジャーやネットダイバーみたいな「いかにもあやしい」雰囲気がありがちですが、本来サイバネティクスというのは人間の失われた器官を人工物で代用することです。つまり、眼が悪くなったからコンタクトというのも歯がなくなったから入れ歯というのも極端な話サイバーなわけです。そして、普通人工器官には人間が持つ通常の能力以上の性能をつけることはできません。法律や社会倫理でこれは定められています。

 と、こんな具合でいつもより字が多くなっちゃいましたがSFの医療について書いてみました。
 SFの真髄は「いかにうまく説得力のあるうそをつくか」ということです。なぜ光速を越えて宇宙船が航行できるのか、どうやってドーム都市などという代物が建設できるのか、クレギオンの人類のレベルはなぜ現代人と同じくらいなのか。それぞれ説明はされていますが、みんな実証されたことではありません。ただなんとなくそれっぽいだけです。つまり、一見説得力があればそれはどんなにムチャな話でも「SF」になるわけです。そしてそこがまたファンタジーのような理論無用の世界とは違った面白さになるわけです。
 というわけで、SFの世界にようこそ。皆さん、楽しんでいってください。


参考資料

「ミクロの決死圏」
 アシモフ著 ハヤカワSF文庫。映画にもなってるので知名度は高いのでは。小さくなった医師たちが患者の体内に治療にいく話。

「バイセンテニアル・マン」
 『聖者の行進』収録 アシモフ著 創元推理文庫。人間になりたいロボットの物語、アシモフのロボット物の傑作です。

「宇宙大作戦」シリーズ
 小説ではなくビデオの方。あの「針のない注射」にはあこがれたもんです。

「医療技術の最前線」
 永井明著 講談社ブルーバックス。タイトル通り医療技術の最先端技術をわかりやすく解説した本。SFのネタにも最適です。

「ヒポクラテスの午睡」
 児玉昌彦 文芸春秋。こちらはうってかわってお医者さんが日々思うことを綴ったエッセイ集。ソフトな面から入りたいという人にお薦め。

「医療技術者になるには」
 関口義著 べりかん社。あの有名(?)な「なるには」シリーズの1冊。医療技術の基本的な種類を知るのにはいいかも。

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